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『美術監督とは何か 美術監督・西岡善信と巨匠たちとの仕事』 山口猛・編

稲川方人
text by Masato Inagawa
豪奢な夢から覚めた後の溜め息
 伊藤大輔監督の『王将』('48)と言えば汽車の煙である。坂田三吉(阪東妻三郎)の住む貧しい長屋は小高い崖の上にあって、路地の切れる崖下に線路がある。人の好い長屋の連中の暮らしを象徴するような路地の向こうに汽笛が鳴って、もうもうと煙が通りすぎる。一日が始まり、一日が暮れる、そうした市井の時の流れを汽車の煙が鮮やかに描き出す。

 この『王将』の長屋はスタジオに建てられたセットである。汽車の煙も、もちろん人工だ。煙の係りがいるのである。それが映画美術の名匠・西岡善信の最初の仕事だった。
 
 
平凡社 ¥3300

http://www.heibonsha.co.jp/
若き日の西岡とともに煙を出していたのは、後に日本映画の力強い異才となる加藤泰である。夢のようなエピソードではないか。本書で語られるどのエピソードを採っても、もっぱら豪奢な夢から覚めた後の溜め息が残る。日本映画の発祥の地、京都の映画人の粋が、随所に極まっている。

 本書と併せて、同じ大映京都の美術監督・内藤昭の『映画美術の情念』(東陽一共著/リトル・モア)、同脚本家・星川清司の『大映京都撮影所 カツドウヤ繁昌記』(日本経済新聞社)、そして東京千石の三百人劇場で開催中の、同撮影監督・宮川一夫追悼上映を目にして欲しい。映画の栄枯盛衰の物語がこれほど面 白いのかと納得するだろう。


 

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