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第15回 第1部・最終回「フォッグ・シティへ」

第14回「エルヴィス・コステロの黒い帽子」

第13回「マット・デイモン:雨の日の男 3」

第12回「マット・デイモン:雨の日の男 2」

第11回「M・D:雨の日の男 1」

第10回「ゲイリー・オールドマンを待ちながら」

第9回「ダイアナ・クラールのアルファベット療法”」

第8回「ジョニ・ミッチェルの“悲しき酒場のバラード”」

第7回「ジョニー・リー・ミラーの劇場で」

第6回「ケビン・スペイシーと月明かりのビューティー」

第5回「ニコール・キッドマンのショー・ウィンドウ」

第4回「デイヴィッド・クローネンバーグの処方箋」

第3回「ロバート・カーライルの虹色の瓶」

第2回「エドワード・ノートンとお茶を」

第1回「デイヴィッド・フィンチャーの雨降る家」
 





2000.06.24 UPDATE
 
大森左和子
text by Sawako Omori


 



レイン・シティ。それは世界のどこかにある街。
名前通り、雨や曇の日が多い。
夜になると、ストリート・ライトが道しるべ。
大雨の夜、ジャズ・クラブの前で雨やどりしているのは
シャツを無造作に着たラッセル・クロウ。
そのクラブに、今夜、出演なのは、
最近、ジョニ・ミッチェルとも共演したマーク・アイシャム。
レイン・シティの夜がふけていく...。


 
 

 なんだか気になっているのに、結局、距離を縮めることができない。
 そんな友人がいるものだが、ゲイリー・オールドマンも、そのひとり。

 長い間、音信不通の彼から、突然、一枚のハガキがきた。
 「1週間後に会おう。レイン・シティのカフェ・ブリューで」

 ゲイリーに初めて会ったのは数年前のこと。
 ブルー・シティにいた頃、彼と一緒に仕事をしたことがあった。
 ゲイリーの友人がロック・バンドのリーダーで、
 そのギグの仕事を手伝ったのだ。
 ギグは大成功に終わり、みんなでイングリッシュ・パブに行った。

 そして、偶然、ゲイリーと席が隣同士になった。
 にっこり微笑んだ彼と目が合い、思わず視線を返す。
 彼とゆっくり話すのは、初めてなのに、
 アルコールの力もあって、妙になごんだ空気が流れた。
 好きなロック・バンド、映画、本の話。
 まるで学生時代に戻ったような気分だ。
 ケン・ラッセルやジョン・シュレシンジャーの70年代の映画の話も出た。

 その夜、ゲイリーは無邪気で、どこか危なっかしく見えた。
 テーブルの上にある船のミニチュアをさわって、先端部分を壊したりした。
 「目の前に何かあると、つい、イタズラしたくなって」
 店の人がいやそうな顔で船を持ち去った。
 そんな時、バツの悪そうな顔をするゲイリーが、なんだか妙に憎めなかった。

 自然に流れる時間。

 ギグのスタッフたちは、いつの間にか姿を消し、気づくとふたりだけ。

 店を出ると、夜が白みかけている。
 話を続けてもよかったが、ゲイリーは眠そうだし、
 こちらは翌日の仕事の準備もある。
 「今度、映画でも一緒に行こう」
 彼の言葉にうなづきながら、右と左に道が別れた。

 それ以来、会っていない。
 彼は演劇関係の仕事につき、ある女優と結婚したと聞いた。
 次に入ってきたのは、その女優と別れたという話。
 女性がらみの噂をいろいろ耳にするが、今はどこにいるのか分からない。

 クリスマスカードだけは、毎年、律儀にくれた。
 「あの夜は楽しかった。また、会おう」
 いつも同じ言葉がある。いつも住所はない。

 しかし、ついに「1週間後」という具体的なメッセージが届いたのだ。
 今度こそ、左右の道がクロスするかもしれない。

 約束のカフェ・ブリューはレイン・シティのややはずれの方にある。
 ジョニ・ミッチェルの“悲しき酒場”(注:8話)ほど、遠くはないが、
 ホテルからタクシーで20分ほどかかった。
 淡いブルーのペンキが塗られた小さな木作りの店で、
 表に古いアールヌーボー風のオルゴールが飾ってある。
 店内にはスタイル・カウンシルの「エヴァー・チェンジング・ムード」が流れていた。
 懐かしいポール・ウェラーの声に、なぜか、なごむ。

 店主にコーヒーを注文し、ゲイリーに渡そうと思っていた写真集を取り出す。
 『サム・ウィメン』。
 それは故人となった写真家ロバート・メープルソープの本だ。
 さまざまな女たちが、白と黒のインクの上で、美しい表情を見せる。
 中にはゲイリーと浮名を流した女優の写真も含まれていた。

 7時が約束の時間だ。

  ユマ・サーマン。優雅なロング・ドレス。
  シガニー・ウィーヴァー。長くカールしたヘアー。

 7時30分。追加のコーヒーをオーダーする。

  イザベラ・ロッセリーニ。魅惑的な目。
  メラニー・グリフィス。愛らしい瞳。

 8時30分。クラブハウス・サンドを注文する。

  ローリー・アンダーソン。首にのびる指。
  パティ・スミス。重ねた手。

 9時20分。今度は2杯目のアールグレイ・ティーを注文する。

  キャスリン・ターナー。肩にかかったドレスの黒いライン。

 9時25分。ティーを飲む。

  スーザン・サランドン。胸をおおう柔らかなベルベット。

 9時35分。グラスの水が空っぽだ。

   リサ・マリー。彫刻のように完璧な裸体。

 9時55分。テーブルの上が片づけられる。

 「お客様、閉店です」
 マスターにそういわれると、時計は10時をまわっていた。

 約束の主は現れない。
 3時間も待った愚か者の晩餐は、
 結局、サンドウィッチとささやかな飲み物だけだ。
 店のシャッターが降りるまで、外で待つこと、さらに15分。
 写真集は店のマスターにプレゼントした。

 夜空を見上げると、
 レイン・シティのビルの向こうに満月が出ていた。
 ゲイリーは、誰かと月世界旅行にでも、行ったのだろうか。

 「1週間後に会おう」
 数年前から沈殿しているシンパシーは、そのメッセージと共に、
 結局、小さな星となって、宇宙をさまよい続ける。

 カフェ・ブリューの夜は終わる。

 ゲイリー・オールドマンを待ちながら。
 
 
MUSIC ; Everchanging Mood (from"CAFE BLEU")
THE STYLE COUNCIL


 最近ではジョニー・リー・ミラー(7話目)とロバート・カーライル(3話目)主演の『プランケット&マクレーン』の製作を担当したゲイリー・オールドマン。『ロスト・イン・スペース』で来日したが、人の目を見て話す、あの独特の雰囲気は、いったい何? 女優キラーといわれる理由が分かる気がした。でも、友だちになれそうな雰囲気も。音楽は80年代のスタ・カン。故メイプルソープの本は89年出版で、登場した女優の動きは写真集通りに描写した。ゲイリーが出てきたのも、80年代でしたね。今度は『ハンニバル』のレクター博士ことアンソニー・ホプキンスの対決相手なんですと。楽しみだな。
 
 
 

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