以前はレイン・シティの住人で、
今は郊外の屋敷に引っ越したのが、ケビン・スペイシー。
彼がいたマンションには、現在、エドワード・ノートンが住んでいる。
ノートン家にケビン・スペイシーが来ているという知らせが入り、
会うことになった。
見覚えのある高層ビルに到着すると(注:第2回目、リメンバー?)、
ケビンはロビーで待っていた。
映画で見るより、ずっと優しい顔で、静かな微笑みを浮かべていた。
「部屋で話そうと思っていたが、
あの賞以来、なんだかオファーが殺到してね。
今から新作の打合せに行かなくては」
ケビンは今年、『アメリカン・ビューティ』で
アカデミー主演男優賞をとった。
「これプレゼント。郊外に住むと、植物に凝りたくなる。
赤い薔薇をうまく咲かせる方法を考えたが、今度はこれ」
紙袋の透明な植木鉢に、ある苗が入っていた。
「月下美人。英語に訳せば”月明かりのビューティ”、
名前がいいね。夏に一夜だけ咲く、珍しい花だ。
でも、2週間で咲かせる方法がある。実はいい肥料を見つけたんだ」
ケビンはボトルに入ったふたつの液体肥料を差し出す。
ひとつは透明で、もうひとつは白い。
「それに、これも」
なんと、小さな箱の中には子猫が入っていた。
目が緑で、ミャーと、か細い泣き声を上げる。
赤い首輪がとてもよく似合う。
「名前はアリス。おっと出発の時間だ。ホテルまで車で送ろうか」
ホテルに戻り、ケビンにもらった肥料を植木鉢にかける。
透明の液はサラサラしているが、白い方はなんだか粘り気があり、
異様なにおいを発している。
顔をしかめつつ、球根にかける。
猫のアリスはその様子を見る。頭をなでると、ゴロゴロ喉をならす。
なんて、かわいいのだろう。
数日が過ぎ、苗はまたたく間に大きくなった。
ケビンにもらった肥料をあたえるのが、今では朝の日課。
透明な液とトロリとした白い液。本当にヘンなにおいだ。
そんな様子をアリスはいつも不思議そうに見ている。
頭をすり寄せるしぐさが、本当に愛らしい。
運命の日が近づいてきた。幹の先に柔らかな小さな白いふくらみが出た。
2、3日が花が咲きそうだ。
ある日の夕暮れ。
ホテルに戻ると、目の前に白い花がいた。
幾重にも層を持つ大きな花びら。丸く、ふんわりと。
中からつき出た花弁も白い。
まるで、人間だ。なまめかしい肌の美女。
独特の妖気で、こちらを見る。
その見事さに圧倒されたが、部屋にいるのが、こわくなってきた。
年に一度だけの命。
解き放たれた生が部屋中に充満し、見る者を窒息させる。
アリスのかわいい顔を見れば、気分が落ちつくだろうか。
名前を呼ぶが、窓から外に出たのか、姿が見えない。
ホテルを出て、夕食をとることにした。
遂に咲いた月下美人だが、今夜はあの部屋で寝る気になれない。
こちらの精気まで吸いとられそうだ。
結局、映画館に入り、ケビン・スペイシーの3本立てを見ることにした。
朝日が昇り、映画館を出る。
早めの朝食をとろうか。
こんな時、開いているのは24時間オープンのドーナッツ・ショップぐらいだ。
小さな店でホット・ミルクを飲みながら、
白い花の襞を思い出し、身震いする。
しかし、朝日と共に、命も終わったはずだ。
女は部屋でぐったりうなだれていた。
花びらの先は固く閉じられ、先端にふれると、ポトリと床に落ちる。
美人薄命。
ただ、閉じられた花びらの中に、変なものが見える。
引っぱり出すと、赤いビニールの首輪だ。
苗が入った透明の鉢植えに、そして、目立たない透かし文字を発見した。
A・L・I・C・E。
アリス? この花が?
「実はいい肥料を見つけたんだ」
ケビンの言葉が、ゆっくり、頭の中をまわっていた。
