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第15回 第1部・最終回「フォッグ・シティへ」

第14回「エルヴィス・コステロの黒い帽子」

第13回「マット・デイモン:雨の日の男 3」

第12回「マット・デイモン:雨の日の男 2」

第11回「M・D:雨の日の男 1」

第10回「ゲイリー・オールドマンを待ちながら」

第9回「ダイアナ・クラールのアルファベット療法”」

第8回「ジョニ・ミッチェルの“悲しき酒場のバラード”」

第7回「ジョニー・リー・ミラーの劇場で」

第6回「ケビン・スペイシーと月明かりのビューティー」

第5回「ニコール・キッドマンのショー・ウィンドウ」

第4回「デイヴィッド・クローネンバーグの処方箋」

第3回「ロバート・カーライルの虹色の瓶」

第2回「エドワード・ノートンとお茶を」

第1回「デイヴィッド・フィンチャーの雨降る家」
 





2000.04.29 UPDATE
 
大森左和子
text by Sawako Omori


 



レイン・シティ。それは世界のどこかにある街。
名前通り、雨や曇の日が多い。
そして、夜になると、ストリート・ライトが道しるべ。
怪しげな黒マントの男と道ですれ違い、顔を見たらジョン・マルコヴィッチ。
ヴァイオリン・ケースをかかえていた。
今夜、レイン・シティのクラブに出演するのは、
ブロンド・ヘアーが美しいジャズ・シンガー、ダイアナ・クラール。
ハスキーな声で、『トゥルー・クライム』のテーマ曲を歌う。
こうしてレイン・シティの夜がふけていく。


 
 
第6回 ケビン・スペイシーと月明かりのビューティ

 以前はレイン・シティの住人で、
 今は郊外の屋敷に引っ越したのが、ケビン・スペイシー。
 彼がいたマンションには、現在、エドワード・ノートンが住んでいる。
 ノートン家にケビン・スペイシーが来ているという知らせが入り、
 会うことになった。
 
 見覚えのある高層ビルに到着すると(注:第2回目、リメンバー?)、
 ケビンはロビーで待っていた。
 映画で見るより、ずっと優しい顔で、静かな微笑みを浮かべていた。
 「部屋で話そうと思っていたが、
 あの賞以来、なんだかオファーが殺到してね。
 今から新作の打合せに行かなくては」
 
 ケビンは今年、『アメリカン・ビューティ』で
 アカデミー主演男優賞をとった。
 「これプレゼント。郊外に住むと、植物に凝りたくなる。
 赤い薔薇をうまく咲かせる方法を考えたが、今度はこれ」
 
 紙袋の透明な植木鉢に、ある苗が入っていた。
 「月下美人。英語に訳せば”月明かりのビューティ”、
 名前がいいね。夏に一夜だけ咲く、珍しい花だ。
 でも、2週間で咲かせる方法がある。実はいい肥料を見つけたんだ」
 ケビンはボトルに入ったふたつの液体肥料を差し出す。
 ひとつは透明で、もうひとつは白い。
 
 「それに、これも」
 なんと、小さな箱の中には子猫が入っていた。
 目が緑で、ミャーと、か細い泣き声を上げる。
 赤い首輪がとてもよく似合う。
 「名前はアリス。おっと出発の時間だ。ホテルまで車で送ろうか」
 
 ホテルに戻り、ケビンにもらった肥料を植木鉢にかける。
 透明の液はサラサラしているが、白い方はなんだか粘り気があり、
 異様なにおいを発している。
 顔をしかめつつ、球根にかける。
 猫のアリスはその様子を見る。頭をなでると、ゴロゴロ喉をならす。
 なんて、かわいいのだろう。
 
 数日が過ぎ、苗はまたたく間に大きくなった。
 ケビンにもらった肥料をあたえるのが、今では朝の日課。
 透明な液とトロリとした白い液。本当にヘンなにおいだ。
 そんな様子をアリスはいつも不思議そうに見ている。
 頭をすり寄せるしぐさが、本当に愛らしい。
 
 運命の日が近づいてきた。幹の先に柔らかな小さな白いふくらみが出た。
 2、3日が花が咲きそうだ。
 
 ある日の夕暮れ。
 ホテルに戻ると、目の前に白い花がいた。
 幾重にも層を持つ大きな花びら。丸く、ふんわりと。
 中からつき出た花弁も白い。
 まるで、人間だ。なまめかしい肌の美女。
 独特の妖気で、こちらを見る。
 その見事さに圧倒されたが、部屋にいるのが、こわくなってきた。
 年に一度だけの命。
 解き放たれた生が部屋中に充満し、見る者を窒息させる。
 アリスのかわいい顔を見れば、気分が落ちつくだろうか。
 名前を呼ぶが、窓から外に出たのか、姿が見えない。
 
 ホテルを出て、夕食をとることにした。
 遂に咲いた月下美人だが、今夜はあの部屋で寝る気になれない。
 こちらの精気まで吸いとられそうだ。
 結局、映画館に入り、ケビン・スペイシーの3本立てを見ることにした。
 
 朝日が昇り、映画館を出る。
 早めの朝食をとろうか。
 こんな時、開いているのは24時間オープンのドーナッツ・ショップぐらいだ。
 小さな店でホット・ミルクを飲みながら、
 白い花の襞を思い出し、身震いする。
 しかし、朝日と共に、命も終わったはずだ。
 
 女は部屋でぐったりうなだれていた。
 花びらの先は固く閉じられ、先端にふれると、ポトリと床に落ちる。
 
 美人薄命。
 ただ、閉じられた花びらの中に、変なものが見える。
 引っぱり出すと、赤いビニールの首輪だ。
 苗が入った透明の鉢植えに、そして、目立たない透かし文字を発見した。
 A・L・I・C・E。
 
 アリス? この花が?

 「実はいい肥料を見つけたんだ」
 ケビンの言葉が、ゆっくり、頭の中をまわっていた。
 
 
『アメリカン・ビューティ』で2度目のアカデミー賞に輝いたケビン・スペイシー。不気味な彼を起用することで、一見、ありふれたホームドラマがアクの強いブラック・コメディに変身。エドワード・ノートンとは、本当にお友だちらしい。ふたりともデイヴィッド・フィンチャー一家だものね。
 月下美人という花、かつてわが家にあった。昼はつぼみで、夜は大輪の花。あんな気色悪いもの、見たことない。でも、湿った雰囲気がケビンにぴったりです。
 
 
 

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