街の中心街にひときわ目をひくショー・ウィンドウがある。
そこには“街で一番きれいな女”というプレートがはられ、
マネキン人形が立っている。
その顔に見覚えがあった。
ニコール・キッドマンだ。
髪はブロンド、肌はどこまでも白い。
顔にほのかな陰影をつけるブルーがかったアイシャドウ。
細くも、太くもない透き通るような目で、じっとこちらを見ている。
形のいい唇には薄いピンクの口紅。
ウィンドウに向かって両方に広げられた腕は理想的な長さで、
指にはパールがかったピンクのマニュキュア。
その日、彼女は優雅な白いドレスを着ていた。
シルク製で、ところどころに花のすかし模様が入る。
首からのびた肩に見えるのはドレスの細い紐だけ。
胸の起伏が描くふたつのなめらかな曲線。
くびれのあるスリムなウエストライン。
足はまっすぐ伸び、白いヒールの靴をはく。
シンプルなパンプスだからこそ目立つ、形のいい足首。
誰が見ても、美しい、と思わずにはいられない完璧なプロポーションだ。
月明かりに照らしだされたマネキンは、光輝いていた。
「すごいでしょ、これは自分でも気にいってるわ」
その声に振り向いてみても、誰もいない。
「私よ、私。街で一番美しいといわれている女よ」
やはり、誰も立っていない。
「あなたの目の前にいるでしょ」
どうやら、マネキンが喋っているようだ。
「私には自分だけの肉体がないのよ。だから、完璧な体を手にいれられる。
秘密を見たい?
このビルの裏口の階段を登って、2階の奥の関係者用のドアを開けてみて」
彼女の声に従い、裏口に行く。
華やかな表通りとは違い、裏通りはやや寂しい雰囲気だ。
ビルの横にあるさびついた鉄の階段を登って2階に行くと、
関係者用のドアがある。
ドア・ノブをまわすが、鍵がかかっていた。
「20回、回せば大丈夫」
その声に従って、ノブをまわし続けると、いつの間にかドアが開く。
中に入り、電気をつける。
なんと、そこには表のウインドウと同じ顔の人形が数えきれないほどあった。
手、足、さらに胴体部分が、床に積み重ねられている。
「これを好きなように組みかえて、理想の女になるのよ。
たとえば、これはキューブリック用に作ったもの。
彼は人工美女が好みだから、鼻は高く、肌は白く、完璧なスタイルにしたわ。
全裸だって、自信を持って撮影できた」
目の前にはキューブリックの「アイズ ワイド シャット」の
ニコール・キッドマンの部品がバラバラに並んでいた。
体の部品には無駄な贅肉がいっさいない。
「私生活用には、これよ。
ほら、家庭生活や子育てには、きれいな体でなくてもいいから、
わざと太めにしたわ。完璧すぎない方が男って、安心するものよ」
どこかふっくらしたマネキンの部品が目に入る。
肌の弾力性がやや衰えている。
「これだけ体がいろいろあるから、世界も広いわ。
何本もの映画に出られるし、
何人もの男とつきあえる。
同時にね。
世間で私はニコール・キッドマンと呼ばれているわ」
“街で一番きれいな女”の秘密を知り、不思議な気持ちで倉庫を出た。
悪夢を見ているような気がして、バーに入りたくなった。
商店街のはずれに、店を見つけ、ドアを開ける。
「あら、いらっしゃい」
中にはスラリとした人形のような女たちが何人もいた。
薄暗がりの中でその姿が、少しづつはっきり見えてくる。
ひとりの女は腕がもげ、別の女は鼻が欠けている。
その女たちの顔は、みんな、ニコール・キッドマンそっくりだ。
おそろしくなり、あわてて、店の外に出る。
ドアの上には、“セカンド・ハンド・バー”と書かれていた。
