その夜、人けのない通りを歩いていると、小さな黒い影が走り抜けた。
それは一匹の猫だった。
街頭の明かりに照らされた小さな生き物。
好奇心にかられ、しばらく、その後を追うことにした。
猫はわき目もふらず、小刻みに両足を動かし続ける。
やがて、黒い木造の家に入る。
窓から明かりがもれ始めた。
中をのぞき込むと、小さな猫が
わらを敷きつめた小さなベッドの上で毛づくろいをしている。
白に茶色のまだらが入った猫だ。
細い体で、両方の白い耳だけが異常に大きい。
こちらの視線に気づき、目を見開く。
それは黄金色に輝き、手招きをした。
中に入れという合図だ。
黒い鉄のドアの上には”キャット・マンション”の文字が彫り込まれていた。
このささやかな家がマンション(屋敷)?
マンションの中には木製の棚があり、虹色の瓶が並んでいた。
赤。
黄色。
緑。
青。
紺。
紫。
オレンジ。
明かりの下で、改めて猫の顔を見た。
なんと、ロバート・カーライルに似ている。
「ロバート・キャットと呼んでくれ」
そう言いながら口を両方に思いっきり開いて笑う猫。
それは『不思議の国のアリス』のチェシャー・キャットに似ていた。
「ロバート・ザ・ウィザードと呼ぶ人もいる。すごい発明をしたからね。
虹色の瓶を飲むと夢の国に旅立てる。まずはこれ」
黄色の瓶を指さし、彼は少量をワイングラスで飲みほす。
「目をつぶって、10数えて」
言われた通りにカウントダウンを始める。
そして、目をあけると、猫の姿はなく、人間ロバート・カーライルが立っていた。
『フル・モンティ』に出た時の顔だ。
「俳優は演技力が大事っていうけど、それはウソ。
この虹色の液体を飲むと、何でもできる。さて、今度は紫」
目の前には『司祭』で同性愛の男を演じたカーライルがいる。
そういえば、紫はその手の人が好む色と聞いたこともあったが。
「青は『フェイス』の時。
さて、このオレンジは『ラビナス』。今度はこれにしようか」
再び目を閉じ、数え始めた。
待てよ、『ラビナス』で彼が演じたのは……カニバリストの役。
彼の手がのびてくる。
「さて、準備、OK?」
