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第15回 第1部・最終回「フォッグ・シティへ」

第14回「エルヴィス・コステロの黒い帽子」

第13回「マット・デイモン:雨の日の男 3」

第12回「マット・デイモン:雨の日の男 2」

第11回「M・D:雨の日の男 1」

第10回「ゲイリー・オールドマンを待ちながら」

第9回「ダイアナ・クラールのアルファベット療法”」

第8回「ジョニ・ミッチェルの“悲しき酒場のバラード”」

第7回「ジョニー・リー・ミラーの劇場で」

第6回「ケビン・スペイシーと月明かりのビューティー」

第5回「ニコール・キッドマンのショー・ウィンドウ」

第4回「デイヴィッド・クローネンバーグの処方箋」

第3回「ロバート・カーライルの虹色の瓶」

第2回「エドワード・ノートンとお茶を」

第1回「デイヴィッド・フィンチャーの雨降る家」
 





2000.03.01 UPDATE
 
大森左和子
text by Sawako Omori


 



レイン・シティ。それは世界のどこかにある街。
名前通り、雨や雲の日が多い。でも、夜となると、ストリート・ライトが道しるべ。
肩を丸めて歩いているのは監督のウディ・アレン。
彼も出演するジャズ・クラブで失恋ソングを歌うのはエルヴィス・コステロ。
ライブハウスから出てきたのは、監督のデイヴィッド・フィンチャー。
一緒にいたブラッド・ピットとエドワード・ノートンを車に乗せて、帰宅途中。
風来坊ブラッドは別の街にいるが、エドワードは、最近、街に引っ越して来たばかり。
レイン・シティの夜がふけていく……。



 
 
第1回 デイヴィッド・フィンチャーの雨降る家

 デイヴィッド・フィンチャーの家はレイン・シティのはずれにある。
 それなりに大きい家だが、木材の上にぬられたペンキははがれ落ち、少しとがったふたつの屋根の片方は陥没しかかっている。蔦の枝がからまりながら、2階の窓のまわりを覆っていた。どこか荒廃した屋敷だ。
 窓には教会から下取りしたような古いステンド・ガラスがはめ込まれ、かすかに光がもれている。
 この古ぼけた屋敷が、本当にマドンナのビデオや『セブン』で成功を収めた映画監督の家なのだろうか?

 家の前には小さな階段があり、そこを登ると入口らしきものが見える。
 黒いペンキが塗られ、入口といわれなければ、そうと気づかないほど小さかった。
ドア・ベルを鳴らすと、男が出て来た。『ファイト・クラブ』のロゴが入った紺のトレーナーとコットン・パンツという飾らぬ 服装だ。

「ようこそ、デイヴィッドです」
 1時間ほど前にダスト・ブラザーズのライブをブラッド・ピットやエドワード・ノートンと見ていたが、ふたりとは別 れたようだ。
家には彼しかいない。

 ドアを入り、古い木の階段を登ったが、それは歩くたびにきしる音がする。
2階の小さな居間に案内された。
その部屋の隅には本や映画の脚本が積み上げられていた。ペンキがはがれかけたグリーンの壁には、彼がこれまで手がけた映画のポスターが貼られている。
『ファイト・クラブ』のポスターだけが、妙に真新しく感じられた。

「あの映画を撮ると、贅沢な暮らしがイヤになる。ロケの途中でこの家を見つけて、中心街から引っ越した。映画のセリフにもあったけど、覚えてる? 物を支配しているつもりが、物に支配されている。すべてを失った時、本当に自由になれる」

  髭を少しのばし、穏やかな顔でフィンチャーは話す。その知的で、気取りのない声が、古い屋敷に静かに伝わる。

「原作本にもあった。高級なスウェーデン製家具に囲まれた人生から、僕を救い出して欲しい、という一節がね。ほら?」

 チャック・パラニュークの本を取り出し、こちらに見せようとした瞬間、ポツリとページに水滴が広がる。雨だ。

「映画のブラッドとエドワードも、雨もりの家で耐えた。雨はいいね。謎めいた雰囲気がある」

 その時、雨は激しさを増し、部屋中の明かりが消える。暗がりの中で黒い影がろうそくを運ぶ。

「雨の日はやっかいだ」
 それはブラッド・ピットの声だ。しかし、彼はエドワードと一緒のはず。
「僕はここにいたよ、ずうっと」

 小さなろうそくが揺らめいているが、顔がよく見えない。
すきま風で、ろうそくも消え、暗い部屋に雨音だけが響く。

 電気がついた時、フィンチャーは天井裏を調べていた。
「最近、雨もりがひどくなってきたな」
ストロボのようにゆらめく電気の光。
再び部屋の明かりが消えた。
囁くような声が湿った暗闇に響き渡った。

「僕はここにいたよ、ずうっと」
やはりブラッドの声だった。
 
 
デイヴィッド・フィンチャーは『セブン』『ファイト・クラブ』で知られる才人監督。まず、わたしのレイン・シティに住んで欲しい人です。ここでの彼のセリフは、全部、フィクション。ただし『ファイト・クラブ』のセリフは忠実に訳しました。この映画、セリフが大きな鍵で、字幕だと字数の都合でジョークがおちるのが残念。キーのセリフは、実はわき役に見えるブラピが喋っている。もちろん、ノートンの演技は最高でしたけど。次回は、そのエドワード・ノートンが登場します。
 
 
 

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