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#9 性格がまろやかになったおれが選ぶ今年の映画ベスト1

#8 柔道金世界一、ナンボのもの。オレだって「獣道」金メダルの滝本誠!

#7 ハンニバル・サマー・イン・フィレンツェ

#6 “激しい雨”滝本誠ライブIN東京大学−

#5 出るわ、出るわリンチ系が レイプだ、吊るしだ、カンニバルだ

#4 まだまだリンチの原稿は書ける。以前に何を書いたか忘れているもんね。

#3 “赤い部屋”の歌手ジミー・スコット 極上ライブは魂の血で真っ赤に染まった…

#2 乳頭をおいしくいただくことができた 今日という、すばらしい一日。

#1 NKホールでレズナーは言った。「サンキュー・ベリーマッチ」
 




2000.08.26 UPDATE

滝本 誠
text by Makoto Takimoto


ハンニバル・サマー・イン・フィレンツェ

 フィレンツェでは、宿泊したホテル・オーナー夫妻の郊外の自宅に招かれ、子供たちはプールに入ったり、溺れたりいい思い出を作っていた。小生はその昔、海水浴で溺れたこともあり、水がこわいので一応、水着姿のままプールサイドで鍛えたこともない50代の裸身をさらしていた。

 裸身、そういえばワープロで裸身というような古風な言葉を打ったことがこれまであっただろうか? もっとえげつないのはバンバン打ち込んだことはあるが(いつもか)、裸身などという妙に奥ゆかしい言葉は久しぶりな様な気がする。自分の裸は奥ゆかしいのである。盗撮しないように。そういえば、少年の頃は、丹羽文雄とかが文壇の大御所であり、彼の小説の「御身」「献身」などということばに限りなくいやらしいニュアンスをかぎとっていたものである。当時はラジオ・ドラマでよく流れていてそのときは、家に親がいないことを祈ったものだった。

 ともかくフィレンツェ郊外の一山を購入して、建てられたすばらしい邸宅のプールわきで椅子に座りながら思いをいたしていたのはいうまでもなく、フィレンツェにやってきた唯一の目的、理想の犯罪者ハンニバル・レクター博士のことである。小柄・痩身のレクターが軽々とクラリスを抱え上げられるそのパワーに関して、自分の鍛えたこともない腹を見ながら考えるわけだ。まさか、どっこいしょ、とかよっこらしょとかいいながら、持ち上げたとは思えない。ニャと軽く笑いながら、スッと持ち上げたにちがいない。誰かで試してみたいが、今はなりを潜めているギックリ腰になってはさまにならない。やはり鍛えるべきだろうか? まずは腹筋から。

 そうだろうと思ってはきたが、ルネサンス絵画のつまらなさはどうだ。ウフィツイ美術館で、息子は持ち込んだゲームボーイをボッティチェリ『春』の前に座り込んで夢中になって、ポケモン・ゲットに励むという、不敬、不埒なことをやっていたが、この作品とかはともかく、たいていはあくびがでるほどつまらない。「絵」のタッチそのものがつまらないのである。

 ちかくのミケランジェロの館へもいったが、まあ、こいつはヘタクソである。ぜんぶ自分が主要人物のモデルになっていたりして、醜男の割りにはナルシズムは強烈で、そこは妙に共感したが。

 7歳の息子はなにしろ彫刻作品に興味をもっていた。「でけえ、ちんこ」とかいいながら誰もいないのをいいことに触りまくっていた。

 フィレンツェではほとんどの夕食を「ダンテ」(! これって「紫式部」という和食レストランに外人が入るようなものか? ここではわしらが外人なわけだが)というパスタ・レストランで食べたが、ここは店に水槽があって、エビ系ばかりを家族で注文したら、店をでるとき、水槽は空になっていた。東洋から、レクター目当てにきた変則旅行者たちの胃袋にあのエビたちはあらかた入ったということになる。おいしかった。フィレンツェに行かれたかたはぜひとも「ダンテ」にいかれるように。

 『神曲』を再読しなくてはいけない。『セブン』のとき、『カンタベリー物語』などとともに、「7つの大罪」がらみで机の上に積み上げられたものだが、『ハンニバル』でまたしても『神曲』のおでましとなった。

 ルネサンス絵画研究のイコノロジー学派、つまり絵のなかの花はなにを意味し、とか当時は自明であっても今は隠されたものとなってしまった「意味」をあれこれ論じる学派が存在するが、そうしたフィルターでも通さないと絵が魅力あるものにならないということはよくわかった。

 しかし、ウフィツイでも興味ぶかいものはあって、それはカラバッジョであり、ヤコフ・ポントルモであり・・・つまり、マニエリスムの一部とバロックの入口にある絵画ということになる。あくまで小生の目の趣味なので、ルネサンス・ファンは怒らないように。

 フィレンツェの映画館でもほとんどの劇場をおさえていたのが、『M:I−2』であった。深夜に生ジャズが聞こえたので、起きだしていってみると、駅前でコンサートをやっていた。テントで本を売っていたので眺めていると、平台でずらっと並んでいたのが、吉本ばななの作品集である。すばらしい装丁。ばなながイタリアで格別の人気というのは知っていたが、この冊数ではすべて翻訳されているとおぼしい。

 深夜2時をすぎたころ、思い立ってレクターが住んでいたという設定の貴族の屋敷へ歩いて行ってみた。さすがに誰も通らない暗い傾斜路地の中間地点。屋根裏とおぼしきあたりをみあげていると、2階ぐらいで明かりがつき、カーテンが揺れた。
(C) illustration by Gogh Imaizumi



今回の押収物件:
パスタ・レストラン
「ダンテ」の領収書


レストランの人々は、ヒゲの東洋人が一家を従え、夜毎やって来てはエビばかり食い尽くしていく様を、どんなひそひそ話で送り迎えしていたことだろうか?


 

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