Back Number
#9 性格がまろやかになったおれが選ぶ今年の映画ベスト1

#8 柔道金世界一、ナンボのもの。オレだって「獣道」金メダルの滝本誠!

#7 ハンニバル・サマー・イン・フィレンツェ

#6 “激しい雨”滝本誠ライブIN東京大学−

#5 出るわ、出るわリンチ系が レイプだ、吊るしだ、カンニバルだ

#4 まだまだリンチの原稿は書ける。以前に何を書いたか忘れているもんね。

#3 “赤い部屋”の歌手ジミー・スコット 極上ライブは魂の血で真っ赤に染まった…

#2 乳頭をおいしくいただくことができた 今日という、すばらしい一日。

#1 NKホールでレズナーは言った。「サンキュー・ベリーマッチ」
 




2000.03.01 UPDATE

滝本 誠
text by Makoto Takimoto


NKホールでレズナーは言った。
「サンキュー・ベリーマッチ」


 好きな作家であれ、映画監督であれ、音楽家であれ、夢中になって追い求める時期があり、そしていつの間にか、その熱が消えるときがある。まさにスッと。

 スティーヴン・キングもまさにそうで、いまや『ファイア・スターター』しか、本棚にない。ということはずいぶん前に見切ったということになる。ごめん。映画『スタンド・ バイ・ミー』のヒット以来、どうにも作品に妙なおもねりがフィードバックしているような気がしてならないのである。作品がゆるく長くなって、別の「語り」に変貌してしまった。『キャリー2』がこの春公開されるようだが、キングばなれしつつも、おそらく見にいってしまうのも、映画コラムをホラーからスタートした小生の映画的疼きがそうさせるのである。今年は出るんでしょうね、キング『インソムニア』の翻訳。

 これを心待ちしているのは、唯一クリムゾン・キング(!)が、登場するからである。思えば、スティーヴン・キングこそ、クリムゾン・キングのアメリカン・カルチャーへの伝染そのものだったわけだが、キング・クリムゾンも、1970年代、20代の相当の時間を費やして、その音楽の思想的背景をああでもない、こうでもないとキリスト教神秘主義から、グルジェフ、ウスペンスキーまで文献を漁ったものだが、いつのまにか興味が立ち消えたことを思い出した。まったく、思い出しかないのか?

 キング・クリムゾンの音楽がマジックとして機能したのは、『レッド』までである。
 ……なんでこんな書き出しになったのかわからないが、おそらく締切りのせいであろう。最初の仕事が、ぼくの原稿とりという、あまりに悲惨な業界デビューをしてしまい、その後の人生がとち狂った藤川氏の依頼ゆえ、書きかけのナイン・インチ・ネイルズ論をほっぽりだして、ワープロに向かった結果がこのザマだ。


サンキュー・ベリーマッチ。
 2階席はガラガラだったNKホールのナイン・インチ・ネイルズ・コンサートだったがトレント・レズナーは、まったくの手抜きなしで、キチンとロック・バンドしてくれた。イマドキ、あまりおめにかかれないほど本当に正当なまでにキチンとロックバンドしてくれたのだ。中野サンプラザでの20年前のクラッシュのジョー・ストラマーが、ゲロを吐きながらも、きちんとパンク・バンドしたように、レズナーはキチンとロックバンドしたのだ。不思議な90分。

 ぎっくり腰直後だったため、友人に予告した2階からのダイヴは控えたが、堪能した。カリスマ、レズナーがコンサートの最後に言ったセリフが、サンキュー・ベリーマッチなのだ。こいつから、こんな台詞聞くなんて思いもしなかったよ。

 浅草公会堂でのフランク・ザッパも同じ台詞を口にしていたけどね。ザッパのギター・テクもすごくて、今でも思い出すと鳥肌がたつ。ごめんね、年とると縦の時間が横になるのだよ。記憶が圧縮されて、今、そこにあるアレフってわけだ。

 アレフで迷惑なのは、その名前の会社ではなく、ホルヘ・ルイス・ボルヘスだろう、本当は。ストーカーという言葉があまりにポピュラーになり、上映が躊躇されるアンドレイ・ タルコフスキーの『ストーカー』と同様に、ボルヘスのあの名品を読むときにこれからは、感覚にちょっとした誤差動がおきるってことだ。

 盟優マリリン・マンソンが、ギニョルズ・バンドよろしく、毒気を戯画化して人気を得て逆に毒気を薄めたようには、レズナーは薄まらない。ヤバいヴィジュアル満載の彼らのビデオ・クリップ集が不滅なように。
 レズナーのアイドルがデイヴィッド・リンチだった、というのは初期のクリップを見ればわかる。『鉄男』もしてるね。

 最初にいそいそと、グッズ売り場へいき、長袖シャツを購入、胸に「」のロゴが刺繍されて、これなら50男にも似合うのではないか、と勝手に思い込んで、これを着てしかるべきところへ出れば、2、3人ゲットできるのではないか・・・! わぉおっ、イケてる50男は「」だ。試写会とか、会社とかわざわざトレンチ・コート・マフィアの掟を破って胸をはだけ、このロゴをこれ見よがしに露出してトコトコ歩いてみたが、無反応。仕方なく何人かに、このロゴ知ってると聞いてみたが、すべて「」、いや「NON」のお答え。場所をまちがった。
 ではシブヤで。『ファイト・クラブ』ちゃう? おびえながらガングロ(よく表情はわからないが歓迎はされなかった)が答えてくれたのが唯一嬉しい反応であった。「オレも一応シブヤ系なんだぜ、中原昌也のダチだぜ」と余計なことまで口走ってしまったが、これまた無反応。
 そうこうするうち、3回しか洗濯していないのに、「」シャツはオレの心のようにヨレヨレになってしまった。
(C) illustration by Gogh Imaizumi



今回の押収物件:
よれよれ・Tシャツ

「6千いくらもしたのに…」
と、筆者はボヤく


 

「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.