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ピンク映画にも出演した新進弁士が 監督・製作する異色パロディ映画
『ゴジラ対鞍馬天狗』
題名を見てもわかるとおり、これは『ピンク映画』ではない。かと言って一般映画でもない。世界的ビッグネームがタイトルに入っていても、この映画の存在を知っている人は非常に限られている。僕が知るかぎり、この映画が衆目に晒されたのは2度だけだと思う。そして、その2度とも、僕は居合わせた。
製作、監督、脚本、撮影、編集、そして活弁を、坂本頼光(らいこう)がやってのけたパロディ映画。本人はパソコン一台で作ったと言っているが、まったく便利で、いい時代になったものだ。感性さえ秀でていれば、誰でもおもしろい映画を生み出すことができる。デジタル時代の申し子の見本のような男かなとも見えるが、坂本の目標は違う。彼は今どき、無声映画の弁士になろうと思って本気で活動しているのである。
現在、弁士と言えば澤登翠女史が有名だが、坂本も女史が所属する松田映画社とは関係が深い人間なので、その意味では彼は門外漢ではなく、正統派に属している。20世紀の末、鴬谷駅前に鳴物入りで開館しながら、不入りのため、たった1年で連日興行の幕を閉じた無声映画専門館「東京キネマ倶楽部」のメイン弁士のひとりを務めたのが彼だ。行った人なら分かるだろうが、広大な客席にはポツリとしか観客は存在せず、その舞台上で彼は、孤独な活弁をやっていた。若干22歳だが、すでに辛酸をなめているのだ。
なんで坂本をこのコラムに登場させるかと言うと、彼はかつて、池島ゆたか監督の薔薇族映画『ふりむけば君がいて』(2000)の主人公の三兄弟の内、三男坊の晋平を演じたことがある。そして彼は、伝説的ピンク映画&AV男優・山本竜二の舎弟分(坂本は鞄持ちと言っているが)でもある。探検隊に登場するだけの資格も持ちあわせているのだ。
『ゴジラ対鞍馬天狗』とはこんな内容だ。核実験と戦争に明け暮れ、今や銀河系の脅威となった地球に対して怒った宇宙連合は、地球殲滅のヒットマンとしてゴジラを差し向ける。突如として上陸したゴジラのために焦土と化す大東京。国会では山根博士(志村喬)が「地球を救う最大の秘密兵器は“鞍馬天狗”である」と主張し、居並ぶ政治家、識者から罵詈雑言を浴びせられ、彼は一夜にして廃人同様になってしまう。その頃、伊豆かどこかの漁村あたりでノリの養殖をしながら娘夫婦(東恵美子と清村耕次)と余生を楽しむ鞍馬天狗こと倉田典膳(嵐寛壽郎)は、山根博士の特使(江幡高志)からゴジラ退治の要請を受けるが、頑なに拒絶してしまう。ある日、典膳が1年かけて育成したノリの網が何者かに引き破られ、典膳は驚愕する。と、その時、典膳の目前にゴジラが姿を現わした。怒り狂った典膳は鞍馬天狗に変身し、愛馬にまたがってゴジラに突っ込んでいく…というストーリー。
パロディーと言うよりも、ビデオから名場面を借用して、まったく別の筋書きの出し物を作ってしまったのだ。ストーリー内に出てくる役者やキャラの名前を見ればわかるだろうが、かなりな数の有名作品のクリップが使用されている。コアな映画ファンなら当てるだけでも楽しいはずだ。つまり、1本の映画と呼ぶには語弊がある。この『ゴジラ対鞍馬天狗』は、坂本が自分の活弁のためのライブ用として編集したものだから、彼のライブに出かけなければ見ることもできない。また、このコラムに掲載された以上、もう世に出ることはありえない。残念ながら。

坂本の唯一のピンク映画出演作『ふりむけば君がいて』(2000)
(C)オーピー映画 |
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坂本は熱烈な日本映画ファンであり、特に往年の時代劇スター、嵐寛壽郎(略してアラカン)のフリークとして、今も命日には京都まで墓参に詣でるという本格派だ。その彼がアラカンの甥として知られる山本竜二と昵懇の間柄になるのは当然のことなのだろう。快楽亭ブラック師匠の公演に山本竜二が出演し、その舞台上で山本がみずからをアラカンの甥と紹介したとき、客席にいたのが坂本。坂本は舞台がはねたあとに山本のいる楽屋へ押しかけ、気に入られたのが付き合いの始まりであるという。以来2人は、ピンク映画での共演こそないが、ウルフルズのPVから、はてはAVでの夢の競演(?)まで果たしている。池島監督の『ふりむけば君がいて』に坂本が出演したのは山本の推薦によるもので、坂本は劇中、男とのカラミこそないが、シャワー・シーンであられもない姿態を見せている(笑)。「僕は顔が悪いから!」と恥ずかしがる坂本だが、画面に映るその演技はヌボーッとして掴み所がない。喜怒哀楽に乏しい表情だ。僕の目にはそう見えた。普段の彼のままである。その意味で考えれば、“自然な演技”と言うこともできた。池島監督に彼の演技を聞いたことがあるが“堅いんだよな”とお気に召してはいなかった。以後、坂本は、AVには出ても(なにをやっているのか知らないが)ピンク映画に登場したことはない。
しかし、語りの世界で道を開こうとする青年だから、その能弁ぶりは実におもしろい。『ゴジラ対鞍馬天狗』のライブには、彼の技量が存分に発揮されている。『ゴジラ対鞍馬天狗』は2度見たと書いた。最初は4月6日(土)に短編映画の殿堂・下北沢トリウッドにおける“カツベニスト・坂本頼光の特濃・無声映画の世界・壱”。2度目はゴールデンウィーク最中の5月2日(木)銀座8丁目博品館劇場での“娯楽の原点・新旧無声映画 坂本頼光とルネッサイレントの世界”である。トリウッドはともかく、博品館は商業演劇としては有名な劇場である。たった一度の公演とはいえ、無名の坂本がよく座長を務めたものだ。彼のマネージメントの才覚は相当なものだと思う。
『ゴジラ対鞍馬天狗』での活弁は、画面に登場する役者たちの声色が主体となっていて、彼はアラカンはもとより、大河内伝次郎、三國連太郎、菅原文太、金子信雄、小池朝雄、志村喬の声を軽がると真似てしまう。シーンの使い分けも巧みだ。宇宙連合の総会シーンでは、映像は石井輝男の『スーパー・ジャイアンツ』なのに、活弁は『仁義なき戦い』の菅原文太と金子信雄を思わせる広島弁のセリフであり、流れるBGMも『仁義なき戦い』。これは全編に流れている。2度目の博品館でのライブでは(トリウッド版にはなかった)国会での鈴木宗男VS辻元清美の攻防シーンまで借用して、客席を爆笑の渦に巻き込んだ。事実を使ったパロディなんかテレビでは当たり前だが、作り手の芸を感じるものはまずお目にかかれない。客席に居並ぶ年配客の受け方でよく判る。この作品は単なるパロディよりもグレードが高い。これはハッキリ言える。
トリウッド、博品館ともピンク界の大物がゲストで来場した。トリウッドでは坂本の師匠・山本竜二自身が坂本と対談の形で賑やかなトークを展開した。『ゴジラ対鞍馬天狗』では、画面に山本が登場するとんでもないAVシーンもあるのだ(クレジットタイトルで山本は、三船敏郎と並んでいる)。
博品館のほうでは、復活したピンク映画監督の渡辺護監督が来場していて、監督は坂本の出来に感心していた。「坂本君に『夜のひとで』のビデオを貸したんだ」と、2人の交流ぶりを説明してくれたが、坂本が池島監督の映画に出ていたことは知らなかったらしく、「カラミもやったのかい?」と監督に聞かれたので、NOの返事をすると、少々ガッカリした様子。しかし「今の彼は乗っていますから、使えますよ。AVにも出てますし」とプッシュすると、監督の眼の奥がキラリと光った。6月には新作に着手し、その後も各社から打診があるとかで、渡辺監督はかなり燃えていた。映像ではマグロのような坂本も、鬼畜のような演出をする渡辺監督の手にかかれば、舞台のライブにも少しは色が付くかもしれない。
ちなみにこの秋、10月21日(月)に牛込箪笥区民ホールで「嵐寛生誕百年 鞍馬天狗活弁祭(仮題)」と題した独演会を行なう予定だ。興味のある人は出かけられたし、探検隊長の見るところ、まず、見てソンはない。これは保証する!
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