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第2回「検閲システムと不運な処女作」

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2000.06.14 UPDATE



木村ひろみ
text & photo by Hiromi Kimura


第2回
検閲システムと不運な処女作

暴力に厳しく、性描写に寛容
このあたりはメンタリティの差だが…


日本には1998年に『堕ちてゆく女』で紹介されたフランスの女流監督カトリーヌ・ブレイアの処女長編『UNE VRAIE JEUNE FILLE』が公開される。1975年に撮影された作品が、これまで日の目をみなかったのはなぜか?その前に、フランスの検閲システムについて少し話をしよう。

フランスに検閲システムが生まれたのは1919年の7月のこと。はじめは公教育と美術省の管轄下にあったのが、表現の自由を奪われ厳しい検閲を受けたドイツの占領時代を経て、戦後には情報省、そして現在は文化省の管轄下にあるCENTRE NATIONAL DE LA CINE MATOGRAPHIE(国立映画センター)の中で、COMMISSION DE CLASSIFICATION ET DES OEU VRES CINEMATOGRAPHIQUES(映画作品分類委員会)として存在している。「映倫」マークで知られる日本の映画倫理協会の役割も同じだろうとは思うが、「子供と青少年を保護することを使命とする」映画作品分類委員会の主活動は、フランスで公開される内外の映画作品すべてを審査することにある。



『UNE VRAIE JEUNE FILLE』

法務省、国立教育省、内務省などから派遣されるお役人、法務、教育、社会問題など各分野に明るい専門家、映画界で活躍するプロ、そして18〜25才の若者を合わせた総勢25名の正式委員と50名の委員代理によって構成される委員会は、上映に次ぐ審議会を定期的に開き、

−老若男女にかかわらず、誰もが見られる(明るく健全な)作品
−12才未満入場禁止の作品
−16才未満入場禁止の作品
−18才未満入場禁止の作品
−フランス国内で完全公開禁止の作品

と、各作品を審査、分類し、公開される作品には承認マークであるVISA番号を与える。

このごろは日本やアメリカ製のアニメ&ゲーム類が普及しているから昔ほどではないけれど、10年前にわたしがフランスに来た当初は「へー、フランス人は映画の中の暴力表現が苦手なのか…」と驚いたのを憶えている。分類(CENSURE「検閲」という言葉はあまりにも圧力的なので使用を避けられている)基準にもその「暴力嫌い」が反映されていて、12才未満鑑賞禁止基準は「見るに耐えない恐ろしい映像/児童の心理にショックを与えるような親子関係、児童が持つ安心感を不安定にする映画作品、過剰な暴力…など」で、たいていのホラー映画、アクション系映画はこの部類に入れられる。

ただ性描写については寛容で、男女がベッドでからまろうと、素っ裸で接吻していようと、大人も子供も平気な顔でスクリーンに見入っている。もちろん性行為は人間の自然な営みだから、映画のセックスシーンも性教育の一環だとでも思っているのだろう。このあたりに、やはりメンタリティの差というか、習慣の違いが反映されている。



『HUSTLER WHITE』

16才未満禁止になる作品は「思春期の青少年を、自分自身または他人に対して危険な行為を犯すように仕向けるおそれのある映画作品/自殺、麻薬賞賛…など」で、同じ性を扱うのでも過剰な表現や暴力が加われば対象となる。男性のセックスを切り落とす大島渚の『愛のコリーダ』はこの部類に入るし、上に挙げたカトリーヌ・ブレイアの作品で、ポルノ映画界の王者ロッコ・シフレディをはじめとする男たちをひたすら求めるひとりの女の性をあからさまに描き去年大議論をかもしだした『ROMANCE』も、アメリカ人監督Bruce LaBruceが男性愛を謳歌した『HUSTLER WHITE』(1996)もこのカテゴリーに入れられている。

18才未満お断りの作品は、X(エックスクラス=「見ちゃだめ!」というバツマークからきているらしい)クラス作品 = 成人映画指定作品である場合が多いが、それ以外に「鑑賞者に暴力行為を犯すことを仕向けるおそれのある作品(犯罪、テロ行為賞賛…など)」も指定対象に入っている。ただ、最近は純粋なポルノ映画以外はこの部類に入れられることはほとんどないという。


『 ROMANCE』

そしていよいよ最後のカテゴリー、フランスでの完全上映禁止作品の登場だが、委員会秘書室長ピエール・シャントルイユ氏によると、1979年に審議にかけられたアメリカ映画作品『LA SECTE QUI TUE』(邦訳:『殺しのセクト』、監督:Matt Cavanaugh)以降は対象となる作品が出ていない。

話を再びカトリーヌ・ブレイアの処女作に戻そう。なぜ、この作品が一般 公開されるのに25年も待つことを強いられたのか? この作品は、思春期と大人の狭間にたつ少女の性への目覚めと欲望を描き、映画作家、しかも女性が初めて撮るポルノ作品として注目を浴びるはずだった…にもかかわらず公開にこぎつけることができなかった背景には、ポスト68年の自由な気風から野放し状態にあった検閲制度が整理され、その結果 新設されたXクラスとその特別な税法によりこの手の映画作品が肩身の狭い思いをするようになったこと、そして何よりこの作品のプロデューサーがXクラスの制定に怖じ気づき、編集中だった作品を途中で投げ出した挙げ句破産してしまう(当時の検閲委員会は結局、この作品をXクラスではなく18才未満禁止作品に指定しただけだった)、という不運が隠されていた。

25年後の今日、監督自身によって版権を買い戻されたこの作品はようやく公開のはこびとなり、分類委員会が行った再審議では結局16才未満禁止という別 のカテゴリーに指定されている。




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