第1回「映画作家たちによる芝居は演劇的な試みに満ちていた」

第2回「東京から香港に伝来! まんが喫茶の誕生を目撃したが…」

第3回「わずか4日で打ちきり! イップ・トン主演の実験映画とは?」

第4回「さみしい映画興行の一方で香港から期待の双子監督が誕生!」

第5回“男らしさ”の新たな発見 モンゴル映画『愛のさだめ』


2001.2.16 UPDATE

【第五回】
宇田川幸洋
text by Koyo Udagawa


だいぶサボってしまったので、その間にたまった古いネタを急いでさらって、現在に近づこう。

“男らしさ”の新たな発見
モンゴル映画『愛のさだめ』



 例年のごとくアジアフォーカス福岡映画祭に来ている。10日から15日で16本見たうちで、モンゴル映画の『愛のさだめ』をこの日に見た。

 遊牧民の男の話である。彼には妻と2人の子供がいる。7、8歳ぐらいの長女とまだ幼い長男だ。そこに3番目の子が生まれる。だが、妻は出産のあと、どうしたものか気が狂ってしまう。都会の専門医にみてもらうことをすすめられる。

 それで彼は家族と羊の群れを連れて、はるかに草原を越えて移動をすることになる。狂った妻と生まれたばかりの赤ん坊のめんどうを見ながらだから、大変な旅である。長女がすこしは助けになってくれるが、それでも困難をきわめる。特に感動的だったのは、何十頭、いや100頭以上いるかも知れない羊の群れに川を渡らせるシーンだ。羊は水をこわがるのか、馬で追いたてても、すぐにもどってきてしまう。先に何頭か渡れば、あとにつづいてくるのだろうが、はじめの1頭をわたすこともできない。これまでなら妻と協力して難なくやってきたことだろう。だが、いま妻は何の助けにもならないばかりか、彼女が水に近づくことにも気をつけていなくてはならない。

 男は馬から下り、1頭の羊を抱きかかえて川をわたっていく。容易ではない。やっと向う岸に1頭をわたして、ひきかえしてもう1頭…。

 これまで西部劇で牛群を渡河させるシーンはずいぶん見たが、カウボーイは馬に乗ったまま牛を追いたて、それにはもちろんそれなりの技術と苦労が必要だが、そんなに汗水たらしての労働という感じがしなくて、まさに牧歌的気分で見られた光景だったものだが、この羊群の渡河にはまいった。日本人が田植えを描くような(最近、映画でそういう光景も見ないが)汗と泥とそれから家畜のにおいが体験的につたわってくる。感動的なまでのリアリズムであり、この必死のはたらきぶりの中に主人公の男らしさが輝きをはなつ。

 道中、家畜泥棒のならず者たちにねらわれ、機先を制して銃をかまえ追いはらう一景もあるが、彼の男らしさは、そういう敵とたたかうといったことにではなく、赤ん坊に授乳したり、狂った妻をいたわって羊群とともに旅をつづける、そういう家族をささえる絶え間ない行為にこそあらわれている。

 主人公を演じるTs・トゥムルバートルという俳優は、むちむちっとした相撲の強そうな体の、無骨で朴訥な男らしさをよく出している。その体つきから、ウォーレス・ビアリーを思い出させた。ビアリーも必ずしも敵とたたかわなくとも、弱い者を守るということの中に男らしさを発揮できたスターだ。

 しかし、大体においてアメリカ映画は、というよりハリウッド映画はというべきかも知れないが、男らしさというのは敵とたたかうところに発揮されるものだとしてきて、われわれもそれにならされてしまったんじゃないだろうか。

 最近の『アンブレイカブル』の中で、サミュエル・L・ジャクソン扮するえらそうな、まんがの原画を売っている画商が、square jaw(角ばったアゴ)は正義のヒーローのしるしだと解説していたが、そんなアゴをした(つまり劇画調の顔ってこと)筋トレにはげんでいるらしい体のスターばかり最近は目立つような気がする。だから逆にブルース・ウィリスがウケるのか。でもブルース・ウィリスの体はずんぐりむっくりで、ウォーレス・ビアリー的なむっちりとはちがう。

 上映後のティーチ・インで、監督のJ・ビンデルも、アメリカ映画とはまったくちがう男らしさを表現したかったと言っていた。家庭をささえるバーナ――ゲル(遊牧民のテント)の柱、日本でいえば大黒柱か――たる父親、夫を描きたかった。亡き父(映画監督D・ジグジド)にささげる映画だ、と。

 また、主人公のモデルについても、こんなふうに語った。

「わたしの友人で、オルホン川のあたりで酒をのんでいばって歩いている男がいる。でも、いばっていてもだれも何も言わない。それだけのことはある男だと、みんな認めているからだ。彼の妻は、初めての子を産んだとき気が狂ってしまった。もう1人産むとなおる、と言われて、子供をつくったがなおらず、とうとう子供は5人になった。ある日、家に帰ると、煙が立っていた。妻がなおって、炊事をしていたのだ」

 特別な才能のあるわけではない彼を、みんな尊敬しているという。いい話だ。
 
























※編集部注
●ウォーレス・ビアリー
1885年(86、89年説も)4月1日、米国生まれ。1913年に映画デビューし、喜劇や悪役などを中心に約250作品に出演。代表作は『人生の乞食』('28)、『チャンプ』('31)、『バワリイ』('33)、『奇傑パンチョ』('34)、『悪漢バスコム』('46)など。『チャンプ』ではアカデミー主演男優賞を獲得。1916年にグロリア・スワンソンと結婚したが、2年足らずで離婚。1945年4月15日死去


   












  イタリアン・エロスの巨匠
ティント・ブラスは名物男!?



 このころ、ぼくはティント・ブラス監督について書くために連日ビデオを見ていた。ティント・ブラスといっても、表立った舞台では最近はあまり語られない名前かも知れない。ポルノ映画史上空前絶後の超大作『カリギュラ』('80)の監督、といえば思い出されるだろう。そのまえに、ナチものの傑作『サロン・キティ』('76)も話題になった。『鍵』('84)も谷崎潤一郎の映画化ということで注目された。『鍵』以後のティント・ブラスは、スターもつかわなくなったし、日本での劇場公開ではそんなにパッと騒がれる作品はなくなった。

 しかし、ビデオの世界では彼のエロチック・フィルムは根強い人気があるようで、2000年の秋に『パプリカ』('93)と『背徳令嬢』(2000)、2001年に『背徳令嬢U』('97)が出て、これからも『インモラル日記』(2000)等が待機している。その作品について書くのは、また別の機会にしようと思う。

 とにかく、そんなティント・ブラスについて書こうとしていた夜中に、たまたまCATV(スーパーチャンネル)で「ねむれナイト コルポ・グロッソ」というイタリアのお色気バラエティ・ショーをやっていて(トップレスのおねえちゃんがいっぱい出てくる、一時有名になったあれです)、そこでなんとティント・ブラスに関するクイズが始まったので、おどろいた。いま流行りのシンクロニシティーというやつか。

 解答者は4名。一般視聴者なのか何かのゲストなのか途中から見たのでわからないが、3つの問題が出された。

 (1)ティント・ブラスは、1963年に『働く者は報われない』で監督デビューするまえは、パリの映画博物館で記録係をしていた。○か×か?

 (2)『サロン・キティ』に主演したスウェーデンの女優は誰か? 【1】イングリッド・ショッテ 【2】イングリッド・バーグマン 【3】イングリッド・チューリンから選べ。

 (3)1985年作『ミランダ』でポー河流域の女を演じた×××(女優の名前、聞きもらす)は、その演技を絶賛され、女優としてのキャリアを築いた。○か×か?

 どうです、わかりますか。(2)はすぐわかるけれども、(1)と(3)はかなりカルトQでしょう。でも、イタリア人には、特に「コルポ・グロッソ」を見るような人には、これはやさしい問題のようだ。どうやらティント・ブラスは、イタリア映画界の名物男的存在らしいということがつたわってきた。

 ところで、答は、
(1)○。ただし「映画博物館」というのは日本語の翻訳がわるく、かの有名なシネマテークのこと。「記録係」か何か知らないが、若いころ(20代)のブラスはシネマテークにつとめていたらしい。
(2)はイングリッド(ト)・チューリン。
(3)は×。ポー河流域の女性たちから激しい抗議をうけた、ということだ。これに関しては、ちーとも知りませんでした。

まだ前世紀の記録を書いている。次は早めに更新して現在に近づくつもり。



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