昨日は『ダイナソー』を皇后戯院で見た。恐竜が広東語をしゃべるのを見たかったのだ。今日は、アーロン・クォック、ケリー・チャン主演の『小親親』とアンディ・ラウ、サミー・チェン主演の『孤男寡女』を見た。両方とも現代のロマンスもの。香港映画のテイストもずいぶん変わった。封切りはこの2本だけだ。いや、アン・リー監督、チョウ・ユンファ、ミシェル・ヨー主演の『臥虎蔵龍』も公開中だが、これはハリウッド資本の映画だ。皮肉なことにこっちは武

ものである。
かつては香港映画の封切番線は四つあったのだが、いまは二つだけ。これは単純に考えると、香港に行って見られる新作が4本から2本に減ったことのようだが、そうではない。4系統あると、そのうち半分の二つくらいはシャシン替わりの時期になるから、6本が2本に減るのが実感である。さらに、モーニング・ショー(10時半ごろから)で封切落ちや古い作品を安い料金で見せるというやりかた(10年ぐらいまえまでは、平日のレイト・ショーでもそれをやっていた)もすたれてしまった。だから、香港に行って浴びるように香港映画を見るというたのしみは、もうできない。
ジョーダンにあった昔ながらの大きな映画館、新宝戯院も、ここではずいぶんモーニング・ショーを見たものだが、つぶれていてショックだった。4月に来たときには、モーニング・ショーがポルノばかりになっていたが、あれが末期症状だったのだ。次に来るときには、もう建物もないだろう。写真を撮っておこう。ここは、かつては「嘉禾戯院」という名で、嘉禾(ゴールデン・ハーベスト)のメイン・シアターだったこともある。モーニングとレイトの番組1ヶ月分を印刷した、きれいなカードをつくっていたこともあった。'80年代には香港に来れば、東京の映画館のさみしさを忘れて浮かれることができたが、'90年代には同じさみしさを味あわされてきた。しかも、もっとハイ・ピッチで。
今回、香港に来たのは「フィルムメーカーズ」(キネマ旬報社)というムックのシリーズの、ジョン・ウーの巻の取材のため。どんな取材をしたのかは、8月30日発行のその本を見てください。
そのついでにしたかったのは、去年のPFFで上映された『ファーザーズ・トイ(


的玩具)』という35ミリ中篇で監督デビューしたキャロル・ライ(黎妙雪)の新作の撮影をのぞくこと。こんどのは長篇で、プロのスタッフ、キャストをつかっている。しかし、台風の余波がのこっていて、毎日、雨ばかりだったので、撮影はなかった。それで、ラッシュを少し見せてもらった。ラッシュといっても、フィルムを映すのではなく、編集スタジオのコンピューターのモニターで見るのだ。Avidでの編集の現場というのを初めて見せてもらった。
ライ監督の演出のタッチは、前作『ファーザーズ・トイ』と同様の、ていねいで、あたたかみのあるリアリズムだ。失踪した孫娘を、小さな島で隠遁生活を送っていた祖父が、香港の街に出てきて捜索するという話。娘の母にキャリー・ン(呉家麗)。祖父を、かつてのクンフー・スター、ロー・リエ(羅烈)が演じている。若いころは腕が立った男という設定でアクション・シーンもある。最近ビデオがリリースされた『人肉饅頭3 エンド・オブ・マーダー』('99)ではサエなかった(映画自体、ひどい出来なのでしょうがないが)ロー・リエだが、ここではキリッとした老雄ぶりを見せているようで、期待できる。
キャロル・ライの友人のスタンリーという青年の監督デビューとなる編集中の作品の、編集済みの1シーンも見せてもらった。タイ資本でバンコクで撮影し、題名は『BangkokDangerous』だという。最近、タイ映画界で活躍する香港人というのは多いのか、と質問してみた。
「いや、べつに」とスタンリーは答えた。
「でも、ほら、オキサイド・パンという香港人の監督がいたでしょ、『運命からの逃走』('97)というのを撮った」
「オキサイドは、ぼくの兄だよ」
「……!……」
「 双子なんだ。顔が似てるでしょ。あ、オキサイドの顔は知らないのか……」
なんだか香港映画('80年代の)みたいな妙な出会いだった。『Bangkok Dangerous』はオキサイドとの共同監督だそうで、映画界にまた1組、兄弟のフィルムメーカーが誕生することになる。
見せてもらったのは、主人公の殺し屋が、高層ビルの屋上から狙撃を試みるシーン。隣のビルのペントハウスから出てきた幼い女の子と目が合う。女の子は、表の通りを見下ろし、横づけしたリムジンから、取り巻きに迎えられて出てきた男に手をふる。父親なのだ。殺し屋の標的もその男だ。殺し屋は瞬間ためらいの色を見せる。だが……。女の子がふざけて、指をピストルのかたちにし、ビルの下にいる父を「バーン」と射つまねをする。すると、本当にその指から弾丸がとび出したかのように、父親はぐらっとくずれ折れる。女の子はキャッキャッとよろこぶ。仕事を終えた殺し屋は、そそくさと現場を去っていく。
はやいモンタージュと、ジップ・パン等のキャメラワークで焦燥感を盛り上げ、おもしろい。快調なアクション映画になりそうだ。