第1回「映画作家たちによる芝居は演劇的な試みに満ちていた」

第2回「東京から香港に伝来! まんが喫茶の誕生を目撃したが…」

第3回「わずか4日で打ちきり! イップ・トン主演の実験映画とは?」

第4回「さみしい映画興行の一方で香港から期待の双子監督が誕生!」

第5回“男らしさ”の新たな発見 モンゴル映画『愛のさだめ』



2000.06.03 UPDATE

【第三回】
宇田川幸洋
text by Koyo Udagawa

わずか4日で打ちきり!
イップ・トン主演の実験映画とは?


 アレン・フォン(方育平)監督のビデオ・ドキュメンタリー『藏道 Tibetan Tao』を見に行ったら、ルイ・タン、イップ・トン夫妻に会った。今年もたくさん映画を見るらしい。去年は40何本も見まくっていた。ぼくは香港の旧作中心で、彼らは外国の新作、だから見る映画があまり重ならないのだが、去年は何度も会った。しかし、今年はこれ1回だけだった。

 ちょうどイップ・トン主演の新作『妖魅迷踪』が劇場で公開中である。今夜見に行くよと言ったら、ルイ・タンが「あれは実験映画だよ」と言う。そのこころは「製作費が極端に少ない」。

 一昨日、時間表をしらべておいた華懋戯院のレイトショーに行ったら、なんと『妖魅迷踪』はやっていない。昨日で打ち切られたのか。ということは、4日間で打ち切りだ。



 まだ上映をつづけていた郊外、沙田の映画館に『妖魅迷踪』を見に行く。ここも明日で最後だ。

 香港で不可解な変死事件が続発。その犯人は二人の蛇の精。その一人がイップ・トンなわけだが、特殊効果 やVFXなどまったく用いず、メーキャップと衣裳、そして何より女優の演技だけで蛇らしく見せるというやり方は、たしかに「実験的」である。夜もふけたセントラルの大通 りを、体をくねらせ、モデルのように、しかしキャットウォークではなく、スネークウォークするイップ・トン。そこにかぶさる音楽もよく合っていて、何度かくり返されるこのシーンはよかった。ちょっと『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の土方巽を思い出したくらい。が、チェーンで一斉公開しては、1週間もたないのは当然だろう。東京みたいに単館レイトショーでカルトっぽく売れば、なんとかなるかも知れないが。

 蛇といえば、今年のレトロスペクティブ部門には、蛇の映画が何本もある。全体のテーマは、海外との合作、海外を舞台にした香港映画という特集なのだが。
 



 



  映画祭で見た“蛇映画”の数々
まずはマーシュイ・ウェイパンの遺作



『毒蟒情鴛 The Lovers and the Python』('61)。これは『深夜の歌声』('37)で有名なマーシュイ・ウェイパン(馬徐維邦)監督の最後の作品。これを撮ったあとに、彼は香港で交通 事故死した('61年)。

 自作『麻瘋女』('39)の焼き直しだという。残念ながら、ぼくは『麻瘋女』を見のがしているが、女性が麻瘋、つまり癩病にかかり、人にうつせば治るという迷信を信じた両親がある青年と結婚させるが、うつすにしのびず、やがて彼女は発病するが、酒にとけた大蛇の毒で死のうとしたところ、毒が毒を制して治った、というストーリーである。

『毒蟒情鴛』では、主人公の男が美女と知り合い、誘惑されて一夜をともにする。美女を演じるのは、“小さな野良猫”とあだ名され、コケティッシュな魅力で人気のあったチョン・チン(鍾情)。登場シーンでは蛇的なエロチシズムを漂わせ、主人公とのピクニック・シーンで蛇を配し、不吉なムードを出している。彼女は遺伝的に癩菌を持っていたという設定で、主人公はやがて発病し、顔面 がただれる。絶望してジャングルに駆けこんだ彼をみんながさがす。その中には、すでに病が治癒したチョン・チンもいる。彼女が誤って沼に落ち、そこのヌシみたいな大蛇に襲われたとき、彼女に顔を見られたくないために隠れていた主人公も思わずとび出し、大蛇と闘う。巻きつかれて水に沈んだ彼だったが、結局、勝つ。そして、蛇の毒の溶けた水が癩菌を制して、顔はもとどおりになる。ハッピー・エンド。

 科学的にはむちゃくちゃな話である。書き忘れたが舞台はタイ(『麻瘋女』は清朝時代の中国)。



『蛇魔 Sanda Wong』('55)。フィリピンと香港の合作第1号とクレジットにうたってある。叙事詩的革命ドラマ『ノリ・メ・タンヘレ』('61)で知られるフィリピン映画史上の巨匠ヘラルド・デ・レオン監督が、スタッフ、キャストを連れて香港に赴いて撮った。民国初期の中国が舞台で、フィリピンの俳優が中国人を演じ、北京語吹替え版がつくられた。

 豪商の息子が、結婚とともに家の財産をすべて継ぎ、父から宝物蔵の鍵をゆずられる。この蔵は大蛇によって守られているのだが、この地方の軍閥の長の陰謀によって、この息子は家も財産も新妻もすべて奪われてしまう。やがて彼は、以前に彼の財産をねらっていた盗賊サンダ・ウォンと手を組み、軍閥と戦う。最後はもとの彼の屋敷を舞台に戦闘となり、彼が「ダーロー!」と呼ぶと(ダーは大だろうが、ローは何だろう?)あちこちから大蛇が現われて兵や将軍を襲う。

 このクライマックスでは、かなりの数の本物のニシキヘビをつかっていて、軍人たちが刀で蛇の頭を斬り落とすところなど、本物をそのまま斬ったように見うけられる。この大量のニシキヘビもフィリピンから連れてきたのだろうか。

 荒唐無稽な話だが、画面の構図などにはヘラルド・デ・レオンらしい格調がある。



グロテスクでエロチック
女性監督が撮った痛快作


『蛇妖島 Sarawak』('55)。『蛇魔』と同じ年の作品。香港の映画会社がフィリピンのスタッフとキャストをつかい、フィリピンで撮影した。広東語のアフレコ。ゲテモノ的な妖しさにみちた、グロテスクありエロチシズムありの、なんともたのしい映画である。

 火山の噴火の実景から始まる。その島からそれぞれの小舟で逃げていく島民たち。母と幼い娘だけの舟。その母が途中で力つきて死んでしまう。漕ぎ手を失った舟は漂流し、幼い少女はある孤島に流れ着く。

 無人島かと思うと、ジェーンのような美女がひとりで暮していて、少女は彼女にひろわれる。島のジャングルには、女の姿をした蛇の精がいる(登場シーンでは、樹の幹を這うニシキヘビからオーバーラップして女になる)。この蛇の精が少女をさらうが、コウモリ人間が現われてたすけ、少女をかかえて空を飛び、密林からもとの浜辺へ連れ戻してくれる。この飛行シーンは、コウモリ人間にうしろからかかえられて、ぶら下がった少女の裸の下肢と、スーパーマンのように水平でなくすこし下半身の下がった姿勢で飛ぶコウモリ男の股間が構図のポイントとなる、妙に性的な絵になっている。いま、つい「コウモリ男」と書いてしまったが、それは画面からの印象で、実は、ヘンな笑い声をたてるこの怪人の正体は、男とも女とも、この段階ではわかっていない。さて、その正体は…?

 ストーリーの展開ははやく、少女は大人の体へと成長する。幼い頃もかわいかったが、文句なしの美女に育ち、服装も育ての母と同じジェーン・スタイルである(写 真がそのヒロインである)。育ての母も、相変わらず美しいのはけっこうなことである。

 その頃、ある港町で、'40年代ハリウッドの二枚目風なマドロスと、相棒の小人のコメディ・リリーフのコンビが、宝の地図を見つけ、この孤島にやってくる。それを知ったギャングたちも二人のあとを追ってくる。

 ヒロインはハンサムなマドロスと恋におち、水中キャメラを使って二人が戯れるシーンなどあり、ギャングとの活劇もある。このへんはすべて定石通り。蛇の精がギャングの味方につくというのも、まあわかる。

 しかし、意外なことに、かつて幼い少女をたすけた、あのコウモリ人間が、マドロスをさらって洞窟の中に縛りつけるという事態が起こる。なぜ? コウモリが去ったあと、蛇の精が現われ、あおむけに縛られているマドロスの上に、いやらしくのしかかっていく。と、そこに帰ってきたコウモリ。

 ここで、彼女の正体がやっとわかる。そう、初めの印象ではコウモリだったのだが、実は女。そういえば、このシーンではよく見ると、グロテスクなコウモリ・スーツの胸がふくらんでいる。コウモリ男ならぬ コウモリ女の正体は、ヒロインの育ての母だった!

 では、なぜ彼女はマドロスをさらったのか? ぼくは娘を人間にうばわれまいとする動物的母性愛かと思ったのだが、映画祭パンフレットによれば、彼女もマドロスに恋をしてしまったからだという。狂恋のコウモリ女だ。

 女の姿にもどった彼女は、蛇の精をしめ殺すが、自分も息たえだえ。この洞窟こそ宝の隠し場所であり、ギャングも駆けつけてくるが、そのとき火山の噴火で洞窟はくずれ始める。宝物の一部を持ったマドロスとヒロインと小人だけが脱出。ボートの上でキスをする二人に、あてられたように小人は海に落ちる。The End。

 監督は女性だという。漢字で「維蓮娜」とクレジットされているので、本当の名前はわからないが、苗字か名前か、どちらかが「ヴィレンナ」とでもいうのだろう。
   





  子役スター&人気アイドル
香港をにぎわす2人を紹介しよう


 映画祭の最終日。クロージング・パーティーに、クロージング作品『榴飄飄 Durian,Durian』の出演者であるマク・ワイファン(麦恵芬)ちゃんがいた。彼女はもうじき日本公開の、同じフルーツ・チャン監督『リトル・チュン』で映画デビューしたわけだが、その前作と同じ役をこの新作でも演じている。昨秋、来日したときと全然変わっていない。近来最高の子役スターである。とにかくかわいい。

 かわいいついでに、いま香港の若者の人気を二分しているアイドルの一人を写 真で紹介しておこう。ジョイ・ヨン(容祖児)という歌手。つい最近CDを出したばかりだが、この4月の若者向け雑誌の表紙(及び中のグラフも)を席捲していた。映画にはまだ出ていないが、いずれ出るだろう。彼女と、いまキネカ大森で公開中の『喜劇王』で昨年デビューしたセシリア・チョン(張柏芝)が、2大アイドルといわれている。




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前回、宇田川氏が本連載で紹介した、アメリカのポルノ界に迫った2本のドキュメンタリー映画が<第22回ぴあフィルムフェスティバル>の「LOVE&SEX」特集で日本初公開される。

●『The Girl Next Door 』
  ↓
 『ステイシー・バレンタイン』アメリカ/99年/82分
  7月3日(16:10〜 国際フォーラム
●『SEX:The Anabell Chong Story』
  ↓
 『アナベル・チョンのこと』アメリカ/99年/86分
  7月3日(18:50〜 国際フォーラム

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