去年の東京国際映画祭でおもしろいという評判を聞いたものの見のがした、オタール・イオセリアーニ監督『さらば、わが家』('99)を見て、あんまりおもしろいので呆然とし、うれしくなった。
せりふで語ることがほとんどなく、極端にいえば、せりふは音響にすぎず、登場人物たちの行動の積み重ねでひとつの世界が、すこぶる愉快な世界が、見る見るうちに形成されていく。サイレント・コメディかジャック・タチのようだ。数多い登場人物の行動は、よどみがなく、実に調子がいい。それぞれの人物にしたいことをさせている、あるいは彼らはしなくちゃならないことをやっているからだ。そしてすべての人物の行動に奇異なタッチがひらめく。奇異さと奇異さの衝突が詩を生み、彼らの住む社会のおかしさをむき出しにしてしまう。まったく感服するしかない巨匠の技である。
じつは今回の映画祭はイオセリアーニ特集を組んでいて5作品の上映があったのだ。ところが『さらば、わが家』をぼくが見て、すごい監督がいるもんだと思ったときには、もうほかの4本の上映は終わったあと。しまった。しかしビデオで見せてもらうという手がのこされている。
というわけで『 Et la Lumiere fut(そして光ありき)』('89)を見たら、これがまた傑作。アフリカの村が舞台で、せりふは現地語。ときどきサイレント映画みたいな字幕がフランス語で出る。人を食ったつくり方だが、これで十分で、ぼくはその字幕さえ満足に読めないわけだが、それでもおもしろい。反時代的な方法とは、こういうのをいうのだろう。
あと2本、もったいないことに途中速まわしをしながら見た。そして、どこかで再びイオセリアーニと出会う機会があったら、けっして見のがさないぞ、と思いをかみしめた。
そうして日本に帰ってきたら(この映画祭の話は次回にもつづくのだが、ここでは便宜上、帰国させていただく)たくさんの郵便物の中から<オタール・イオセリアーニ監督特集>の案内が出てきた。
なんと5月24〜30日。もうすぐじゃないか。アテネ・フランセにて9作品一挙上映。で、よくよく見てみたら、これまで未知の監督と思っていた彼の第1作を見ていたことがわかった。グルジア映画『落葉』('66)。'70年代末頃だったか、グルジア映画が何本か輸入されたときがあって、そのときもう1本『田園詩』('76)も公開されたが、こっちは見ていない。
『落葉』はワイン工場に勤める青年の話で、試写のまえにグルジアのワインを飲まされた(べつに、いやなら飲まなくてもいいのだが)のをよくおぼえているが、肝心の映画はあまりおぼえていない。フランスを拠点にしている現在とは全然ちがう作風だったと思う。少なくとも、こんなに笑えなかった。
ともあれ、処女作から最近作までが見られるこの催しはありがたい。ちょうどこの文の掲載時期に合うので、熱烈におすすめする。
